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2019.07.30

建築の中で人の身体が直に触れるのは「床」だけ

建築家
伊東豊雄

1941年生まれ。主な作品に「せんだいメディアテーク」、「多摩美術大学図書館(八王子)」、「みんなの森 ぎふメディアコスモス」、「台中国家歌劇院」(台湾)など。日本建築学会賞、ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞、王立英国建築家協会(RIBA)ロイヤルゴールドメダル、プリツカー建築賞など受賞。東日本大震災後、仮設住宅における住民の憩いの場として提案した「みんなの家」は、被災各地に16軒完成。2016年の熊本地震に際しては、くまもとアートポリスのコミッショナーとして「みんなの家のある仮設住宅」づくりを進め、各地に100棟近くが整備された。
2011年に私塾「伊東建築塾」を設立。これからのまちや建築のあり方を考える場として様々な活動を行っている。

http://www.toyo-ito.co.jp/WWW/index/index_j.html

柱は空間に場を与え、床は空間を規定する

床に関して、大事にしている言葉があります。「柱は空間に場を与え、床は空間を規定する。」これは、僕の先生であった菊竹清訓さんの言葉ですが、1本柱が立っているだけでその周辺に場所が出来る、あるとないとで違った意味を持つ。日本建築においては空間をさえぎるものは柱と柱の間をつなぐ建具であり、壁ではなかった。一方、西欧は壁によって空間が分離され、床は地面の延長です。日本では、地面から浮いた床によって空間が規定されており、空間は建具によって可変的です。そのことが実はすごく大事なのです。つまり、建築の内と外が壁で分かれているのではなく、浮いた床の端部で分かれているのです。だから縁側のような曖昧な部分が発生するのです。現代建築は壁によって内と外が分かれてしまう。だから、どうやって内と外がゆるく連続できるかを一生懸命考えています。
今、東日本大震災の被災地で「みんなの家」という小さな支援活動をやっていますが、皆さん、縁側が欲しいって言われるんですね。仮設住宅って壁で各住戸が切れていて外につながっていないのです。だから隣の人と話す場所がない。被災地にいくと、この内と外をつなぐあいまいなゾーンがあるということがいかに大切かわかりますね。

2011年「仙台市宮城野区の「みんなの家」」

これからは五感を全て使う空間が求められていく。
床材選びは触感が重要なポイントに。

3LDKとか1DKとかいう言い方に象徴されるように、今まで西欧から入ってきたライフスタイルを取り入れていたわけですが、日本の住まい方は本来そうではなくて、襖をあければひとつの部屋になったり、もっと連続性があって、風も通るし光も南側は明るくて北側にいくと暗く涼しいというようなグラデーションがあって、人間が移動しながら場所の違いを使い分けていた。そのような暮らし方に僕は戻っていくべきだと思うんです。特にエコとか省エネということが言われる時、日本人にはさまざまな場所を創りだして人が使い分けるような、五感を働かせる住まい方が合っている。そうなるとこれからの住宅のあり方も変わっていくに違いない。
近代建築では、視覚(見た目のかっこ良さ)が優先的に求められてきたのですが、今また、五感にもとづいて素材を決めていこうという時代に確実に変わってきているように思います。そうすると建築のなかで唯一人間が直接触れる部分である床の選び方も今まで以上に五感にもとづいたものになっていくのではないでしょうか。見た目以上に、足で踏みしめた時の触感が大事になるのでしょうね。

2015年「みんなの森 ぎふメディアコスモス」©中村絵

伊東豊雄さんの“床の記憶”

やっぱり、縁側ですね。小さい頃、田舎で育ったので友達を訪ねていくときに玄関の扉をあけていくなんてことはめったになくて、ほとんど庭先から縁側越しに「〇〇ちゃーんいるー?」みたいな感じで。縁側ってすごく重要だった。コミュニケーションがそこからはじまった。扉をあけて入っていくのは、どんなに親しくても緊張感がありますが、縁側だとそんなことがなくて。で、やっぱり、そこで座る時の「木の床」が最高なんですよね。

※取材は2013年3月5日に行われました。