フローリングができるまで
それは、森の木が、私たちの足下に届くまでの物語ー。
普段何気なく使っているフローリング。そのルーツをたどれば世界中の森を巡り選び抜かれた木々から始まる長い物語があります。その物語をたどってみましょう。
①選木 – 年間100日は森を歩く「杢匠」の目利き –
床材の顔となる表面化粧材には、美しい木目を持つ世界中の銘木が使われます。森と木を知り尽くした匠、「杢匠」が、いい樹を継続的に調達するために、森の健康状態や管理具合をみるべく年間100日は世界の森を歩いています。
樹木は生育地の地形、土壌条件、気候条件などの総合された立地条件による特徴がその材質に現れます。
例えば、石灰質の土壌などに生育している樹木は、著しく生育が悪く欠点が多くなります。また、成長過程でもいろいろなアクシデントがあり、それが木に痕跡として残ります。鹿や熊に傷をつけられたり、濁流に洗われたりした傷跡は、新しい樹皮で覆われます。ここをうまく加工するとバークポケット(入り皮)となっておもしろい表情に現れます。
丸太を表面と木口から選ぶ
切り出された原木は、枝や梢を切り落とす「枝払い」、そして状態や用途に応じて長さをカットする「玉切り」を行います。玉切された一番根元側の部分である「元玉(もとだま)」は、節が出にくいために高値で取引されます。
天然木の表情をデザインとして求める場合は、あえて末側の枝の多い部分や小径木を使います。
原木の買い付けは、たくさんの丸太が並べられたログヤードで行います。
杢匠は、数百本の丸太を表面と木口から判断して、1本1本吟味しながら、その木の行く末、その木の用途を思い描きながら買い付けを行います。
②製材 [1] – キャラクターと木取り –
例えば、どの樹にも現れる「節」は枝があった跡。従来、欠点とされていた節は、活かし方によって木の持つ自然な表情を演出するアクセントになります。製材の木取りによって変わるこれらのキャラクターと木目をどのように扱うか。後の工程にある木組みデザインにおいてクラフトマンの腕が間われるところです。
アメリカ広葉樹に表れる様々なキャラクター(写真協力:アメリカ広葉樹輸出協会)
丸太の選別基準。買い付けしない(ハネる)基準代表例
③製材 [2] – グレーディング –
買い付けた原木は、『そのまま日本へ輸入して製材する場合』と『現地で製材する場合』があります。製材は、木口や側面から、年輪、節、芯の目合いなどを見極め、更に板目、柾目の木取りを考えて、丸太に鋸(のこ)を入れます。
熟練工の鑑識眼と素早い判断、的確な鋸入れが問われる工程です。
木材は、天然素材であるがゆえに様々な特性を持っています。それを理解し用途に応じて使い分けていく必要があります。そのため、木材は製材工程で製材を格付け分類します。
アメリカ現地で大割りされた「ランバー(板材)」は、グレーディングの工程に進みます。ベル卜コンベアの上を流れる材の材面を確認し、グレードを見極め、ペンで印を入れて選別していきます。この工程では、白太、赤身の程度、幅、欠点の程度などの選別を行います。通常、一般的なアメリカの製材品の選別は、製材後の大まかな選別、次工程「乾燥」後の選別の2回です。
④乾燥 – 水をコントロールする、ものづくり –
グレード別にわけられたランバーは桟積みされ天然乾燥されます。樹種によって変わりますが、北米のブラックチェリーやブラックウォルナットは約3ヶ月、ヨーロッパのオークなどは6ヶ月から1年ほど掛けて合水率を落とします。その後さらに乾燥庫に入れて、おおよそ10%程度の含水率にもっていきます。
実は、この乾燥の度合いが木材の品質において非常に重要になります。木が反ったり縮んだりするのは木の水分の蒸発のためです。木と水の原理をいかに理解してコントロールするかが木材製品を扱う上でのポイントです。乾燥工程を終えたランバーは再度選別を行い、日本へ向けて出荷されるカットストックとなります。
⑤加工 – 「手作業×素材の力」が生み出すデザイン –
いよいよランバーが日本に運ばれてきます。ランバーは工場で小割され板子と呼ばれる角材になります。その板子を床材のデザインヘ組み上げる工程を木組みと呼びます。この木組みが床材の意匠品質を決定づける極めて重要な工程となります。
キャラクターの入り方のバランスをとりながら、床のピースをどのように組み合わせるか。熟練の職人の手作業でしか出来ない、素材の力とその木の魅力を引き出す仕事です。それぞれの木の持つキャラクターを活かし、感性に響くデザインを目指します。
森からフローリングへ
挽き板、突き板として完成した化粧材は、合板をメインとした基材に貼り合わされ、実加工・溝加工を経て、塗装が施されます。そして、最終のチェックをクリアしたものだけが梱包されて製品として完成します。北米、ヨーロッパ、アフリカ、東南アジアといった様々な国で育った樹が床材製品として生まれ変わる瞬間です。
⑥完成 – 靴脱ぎの国の、こだわり –
日本が高温多湿な環境であること、そして靴脱ぎの文化を持つ国であることから、床材開発における品質試験項目は世界的にみても厳密で多岐にわたっています。隙や反りだけでなく足ざわりまで、製品の品質によって住み心地の満足度が大きく左右されます。気候の変化や床暖房による収縮を最小限に押さえ込む素材や構成での工夫、優しい足ざわりとメンテナンス性を両立する塗装や溝形状など、機能性にも徹底的にこだわります。
いかがでしたか?こうして、自宅をはじめとした私たちの足下でフローリングを愉しむことができているのです。いくつもの物語を経て世界の森から届けられた銘木たち。フローリングに触れながら、ときには、その旅路に思いをはせてみていかがでしょうか。