高齢者施設において利用者が「転倒」することは、骨折から寝たきりへ繋がる深刻なリスクをはらんでいます。原因は多岐にわたりますが、中でも「滑る」「つまずく」といった足元の環境不備は、重大事故に直結する可能性があるため、確実に対策を講じておくことが不可欠です。
本記事では転倒が起きるメカニズムを整理し、整備に当たって留意すべき場所ごとのポイントや、床材選定のコツを建築士の視点から解説します。
1.高齢者施設で転倒が起きやすいのはなぜ?
転倒事故の多くは入居者の身体的変化(内的要因)と、建物の構造や管理状態(外的要因)が重なり合って発生します。そのため、予防にはこれら両面からのアプローチが必要です。
1-1.内的要因:身体機能の変化
視力、筋力、バランス感覚は加齢とともに低下していきます。特に筋力が低下すると足が上がりにくくなり、わずかな段差でもつまずきやすくなります。また、距離感や奥行きを認識する機能が衰えると、微妙に違う床の色を誤って段差と認識したり、障害物の発見が遅れたりすることもあります。
1-2.外的要因:環境の不備
転倒という観点から考えられる環境の不備として挙げられるのは、滑りやすい床、切り替え部分の段差や、色のコントラスト不足、不適切な照明、動線上に置かれた物や備品、水濡れ、めくれやすいカーペットなどです。
これらの要素は健常者なら無意識に問題なく回避できますが、高齢者にとっては重大な事故を招く大きなリスクとなりかねません。歩行の安定性に直結する床材の選定や、日々の清掃によるコンディション維持は、安全管理における最重要項目といえます。
1-3.「ヒヤリハット」段階で拾うべきサイン
事故を未然に防ぐには、「あやうく転びそうになった」という現場の声を収集し、状況を客観的に観察することも重要です。「ダイニングで椅子から立ち上がる時に滑った」「廊下の見切り材につま先が引っかかった」といった日常生活で見られるヒヤリハットの事例を蓄積し、床材の不備や摩耗具合、入居者の歩行動作を、日頃から細かく観察すれば、潜在的な危険箇所が浮き彫りになります。
2.床が滑りやすくなる原因(施設で起きがちなケース)
施設内の「滑り」は床材の経年変化などの要因があります。代表的なケースを確認しましょう。
2-1.水濡れ・尿はね・結露で滑る
トイレや洗面所、浴室前は水濡れが発生しやすい場所です。床面に薄い水の膜が張ると摩擦抵抗が低下してスリップを招く原因となります。床材によっては水濡れが見えにくいものもあり、その部分を踏んだ入居者が転倒し、重症化を招くリスクが非常に高まります。
2-2.洗剤・ワックス・清掃方法の不適合
床材に合わないワックスの使用や、洗剤成分の残存も滑りを誘発します。美観を重視したり保護目的で過剰にワックスを塗り重ねると、表面が鏡面化してしまうので逆に危険です。清掃業者との連携不足で床材本来の防滑性能をワックスが覆い隠してしまうケースも少なくありません。
2-3.汚れ(皮脂・油分・粉塵)が膜になって滑る
食べこぼしに含まれる油分や皮脂、粉塵が床面に「見えない膜」を作り、滑りやすい潤滑状態になっている場合があります。
そのような状態となっている床を歩行すると、まるでビー玉を踏んだ時のように踏ん張りが効かず転倒することがあるので、定期的な洗浄でこれらを除去する必要があります。
2-4.床材の摩耗・劣化による防滑性の低下
床材は塗装や仕上げ、表面の凹凸などで防滑性を維持していますが、長年の歩行や車椅子の走行で表面が磨り減り、ツルツルに平滑化することがあります。特に通行量の多い廊下や方向転換の多い箇所は摩耗が早く、他の場所と滑りやすさの差が生まれてしまい、予期せぬ転倒を招く原因となります。
3.転倒対策として床材を選ぶ際のポイント

高齢者施設における床材の選定は、単なる「仕上げ」の選択ではなく、利用者の事故を根本から防ぐ「安全装置」の選択でもあります。したがって優先すべき機能要件を踏まえたうえで製品を吟味することが重要です。
3-1.防滑性があるか(水濡れ時を含む)
最重要の指標は滑りにくさを数値化した「滑り抵抗係数(C.S.R’)」です。乾燥時だけでなく、濡れた際にも安全に歩行できる数値を維持できるか確認しましょう。滑りにくく、かつ「つまずき」を誘発しない適度なグリップ力が歩行を支えます。
3-2.つまずきにくい設計になっているか
「納まり」も床材自体の性能と同じくらい重要です。特に床材が切り替わる箇所では境目に段差を作らず、見切りもフラットに仕上げられる製品を選ぶことが不可欠です。さらに、床材の違いで摩擦抵抗が極端に変わらないよう配慮することにより、歩行感の急変によるつまずきや転倒のリスクを軽減することができます。
3-3.歩行器・車いすの操作性
転倒対策では床を柔らかくしすぎるのも禁物です。歩行器や車いすは床に沈み込みすぎると車輪が重くなり、操作に余計な筋力が必要になってしまいます。適度な硬さと防滑性のバランスが重要です。
3-4.万一の転倒時における衝撃吸収性
転倒した際のダメージを和らげる「クッション性」も、床材を選ぶ時の重要な選定基準となります。転倒時の衝撃を示す指標である「G値」が十分に抑えられているか確認しましょう。優れた衝撃吸収性は万が一の転倒時に、骨折などの深刻な怪我を防ぐための備えとなります。
3-5.清掃性と維持コスト
汚れが付きにくく、ウイルスや雑菌が繁殖しにくく、清掃が容易なことも重要です。抗ウイルス・抗菌性能を備え、次亜塩素酸ナトリウム等の消毒液に耐性があるものを選定することで、菌やウイルスの繁殖を抑えた衛生的な環境を長期的に維持できます。
また、こうした清掃性の高さは「維持コスト」の削減に直結します。定期的なワックス掛けや、古くなった膜の剥離作業が不要なワックスフリー仕様であれば、外部業者への委託費や職員の作業負担を軽減できます。薬品による表面劣化も抑えられるため、張り替え周期が延び、中長期的な修繕コストの低減にも寄与します。
4.場所別の適切な床材

床材を選ぶにあたってエリアごとの特性に合わせた「適材適所」の選定を行うことは、安全で快適な環境を実現・維持するための重要なポイントとなります。どの場所にどんな床が適切か、場所ごとに解説します。
4-1.廊下(耐久性+端部の納まり)
廊下は通行量が多く、車椅子や歩行器、配膳ワゴンなどが頻繁に行き交うため、耐摩耗性の高い床材が求められます。また、壁際や建具周りの「端部」に、納まりの問題があると剥がれが生じ、つまずきを招くので注意が必要です。
4-2.居室(立ち上がり・方向転換で滑らないこと+足触り)
居室はベッドからの立ち上がりや方向転換が多い場所です。足元が滑らず踏ん張れることに加え、冷たく感じにくい足触りの良さが重視されます。木目がもたらす心理的な安らぎも、居心地を高める重要な要素です。
4-3.食堂/デイルーム(食べこぼし・椅子引きずり)
食堂やデイルームは食べこぼしや椅子の引きずりなどが多い場所です。床材には汚れが染み込まずに拭き取れる防汚性と、傷に強い耐久性が求められます。水や油脂で濡れた時の滑りにも配慮された素材が理想的です。
4-4.トイレ・洗面・脱衣所(耐水性とメンテナンス性)
トイレや洗面所の床材には、水濡れやアンモニア、消毒液に対する強さが必須です。下地の腐食を抑える耐水性を持ち、清掃後すぐに乾く防滑床材が適しています。トイレや洗面所は衛生管理と物理的な安全性を最優先にすべきエリアです。
5.“運用改善”の限界点
多くの高齢者施設では安全な運用のため、清掃の工夫や職員による入居者の見守り、注意喚起などに努めています。しかし、残念ながら施設側の運用努力・運用改善だけで転倒事故などのリスクをなくせるわけではありません。
5-1.清掃・ワックス調整をしても完全には消えない「滑りやすさ」
日々の清掃やワックスの工夫だけでは、転倒リスクを完全に取り除くことはできません。床材そのものの摩擦係数がもともと低い場合や、経年劣化で表面が摩耗している場合、メンテナンスだけで「滑りやすさ」は解消できないでしょう。また、頻繁な清掃は職員の負担増にもつながります。リスクを回避するためには床材そのものの更新による根本的な改善が必要な時期を把握することも重要です。
5-2.導線上の“小さな段差・納まり”は運用では消せない
建具のレールや床材の継ぎ目にある数ミリの段差は、注意喚起や見守りだけでカバーするには限界があります。高齢者が認識しづらい「無意識のつまずき」を防ぐには、段差そのものをなくすことが不可欠です。
6.朝日ウッドテックの「高齢者施設向けフローリング」がおすすめ

高齢者施設の床材には転倒リスクの低減と快適性の両立が求められます。その解決に有効な朝日ウッドテックの高齢者施設向けフローリング「メッセージケア」をご紹介します。
6-1.メリット①適度な滑りにくさ+衝撃を抑える仕様で、転倒時のリスクを軽減
本製品は、高齢者の歩行特性に配慮した滑り抵抗係数(C.S.R’)を追求しています。中でも衝撃吸収フローリング「スマートセーフティ」は、転倒時の衝撃指標(G値)を低く抑え衝撃が小さく、重大事故のリスクを低減します。
6-2.メリット②「5つの衛生性能」(抗ウイルス・抗菌など)+消毒薬対応で、感染対策と日常清掃を両立
抗ウイルス・抗菌、耐薬品(次亜塩素酸ナトリウム対応)など、感染対策と日常清掃が両立できる機能を標準装備。消毒作業による床の劣化を防ぎ、清潔で滑りにくい環境を長期にわたって維持できます。
6-3.メリット③車椅子利用を想定した耐久性で、傷・凹み・擦り減りを抑制
土足利用や重量物の移動を想定した独自の塗装や構成を採用しており、車椅子の繰り返し走行や急な方向転換で生じる表面の擦り減りや損傷を抑えます。ひきずり傷や落下物による凹み傷もつきにくく、長期にわたる美観の維持が可能なので、修繕や張り替えのコスト低減にもつながります。
7.まとめ 滑り・つまずきを減らすなら、まずは「床材」の見直しから
高齢者施設における転倒対策は、見守り等の「人への働きかけ」に加え、床環境という「物理的土台」の整備が鍵となります。場所や用途に最適化した床材を選ぶことは、入居者の安全確保と自立支援に直結します。
事故を「起こさせない環境づくり」の第一歩として、最新の床材導入を検討してみてはいかがでしょうか。
▶︎ 高齢者施設向けフローリング「メッセージケア」の詳細・施工事例はこちら
https://www.woodtec.co.jp/products/lineup/flooring/public/message-care/
記事監修:辻 久(つじ ひさし)

一級建築士。INA新建築研究所を経て独立し、建築設計due代表を務める。現在まで20年以上、一級建築士事務所を運営し、住宅、店舗、集合住宅、医療福祉施設など多数の設計監理実績がある。



