COLUMN #63
動物医療技術師 石川 美代子

犬を自宅に迎える際には、犬にとって安全な住環境を整えておくことがとても大切です。特にトイプードルやポメラニアン、ヨークシャーテリア、シーズー、ミニチュアダックスフンドなどの小型犬は生まれつき関節が弱いことが多く、とりわけ床の滑りにくさに配慮した部屋づくりが欠かせません。
しかし、なぜ犬はフローリングで滑ってしまうのでしょうか。この記事では、犬が滑る原因や引き起こされる健康トラブルを詳しく解説します。さらに、今すぐ実践できる5つの滑り止め対策や、マンション・戸建てといった住まいタイプ別のポイントもご紹介します。これから犬を迎える人はもちろん、愛犬のために住環境を見直したいオーナー様も、ぜひ参考にしてください。
犬の室内飼いには多くのメリットがある一方、注意しなければならないのは「床の滑りやすさ」です。まず犬がフローリングで滑りやすい理由と、特に注意が必要な犬について解説します。
多くの家庭で使われている一般的なフローリングは、実は犬にとって非常に歩きにくい場所です。その理由は、犬の足の構造を知ると理解できるかもしれません。犬は、足裏の「肉球」と「爪」を使って歩行します。土や草地などの柔らかい地面に爪をしっかりと食い込ませ、スパイクのように使って、歩いたり走ったりしています。
しかし現代の一般的な住宅の床はフローリングが主流です。硬いフローリングには爪は刺さらず、踏ん張りがききません。また肉球の表面は比較的乾燥しやすいため、ワックスなどで磨かれた床の上では摩擦が生まれず、滑りやすいのです。
床の滑りやすさはすべての犬にとって脅威ですが、特に注意が必要なのが「小型犬」「子犬」「シニア犬(老犬)」です。
トイプードルやポメラニアンなどの小型犬は、遺伝的に関節が弱い傾向があります。さらに小型犬は骨が非常に細いため、わずかな滑りによる関節への負担が大きなケガにつながるリスクがあります。
また、子犬は骨格や筋肉が発達途上ですし、老犬は筋力の低下から踏ん張る力が弱まっています。重心が不安定な子犬や、足腰が弱りバランスを崩しやすい老犬には、特に注意してあげましょう。

滑りやすい床は、犬の心身に大きなダメージを与える危険性があります。なかでも特に多い3つのリスクをご紹介します。
滑りやすい床での生活は、大きな関節トラブルを招きかねません。その代表格が「膝蓋骨脱臼(パテラ)」です。パテラは後ろ足の膝のお皿(膝蓋骨)が正常な位置から外れてしまう疾患で、進行すると慢性的な痛みや歩行困難を引き起こします。特にリスクが高いのは小型犬です。
滑る床を歩くたび、犬の膝には外側や内側へ不自然なねじれの力が加わり続けます。健康寿命を延ばすためにも床の滑り対策は極めて重要です。
■膝蓋骨脱臼(パテラ)については、こちらで詳しく解説しています。
・パテラとは?膝蓋骨脱臼に注意!愛犬の寿命を延ばす、フローリングを選ぼう
もうひとつ警戒すべきなのが「椎間板ヘルニア」です。犬が転倒したり、足を滑らせて腰をひねったりすると、背骨の間にあるクッション(椎間板)が飛び出して神経を圧迫することがあります。重症化すると強い痛みで歩けなくなったり、下半身麻痺を引き起こしたりすることも。
特に発症しやすい犬種は、ミニチュアダックスフンドやコーギーなど、胴長短足の犬たちです。床の滑りは、背骨や腰への慢性的なダメージを蓄積させる大きな要因となるのです。
滑りやすい床は、犬にとって心理的・精神的な負担(ストレス)にもなります。歩くたびに足元がおぼつかないと、常に「転ぶかもしれない」という恐怖を感じるものです。これが日常化すると、歩くこと自体が億劫になり、サークルやベッドから動きたがらない「運動嫌い」になるかもしれません。
運動不足は肥満を呼び、それがさらに関節へのダメージを増やすという悪循環に陥ることもあります。滑る床が与える心理的ストレスは決して無視できません。

犬が床で滑るのを防ぐには、幾つか方法があります。今すぐ簡単にできるものから、費用や時間はかかりますが根本的な解決になるものまで、5つの対策をご紹介します。
犬が床で滑りにくくなる基本的な対策のひとつが、カーペットやラグ、ジョイントマットなどを敷くことです。比較的コストは抑えられ、部分的に敷くだけなので、すぐに導入できる点が大きなメリットです。
一方、本来の床材の意匠性が損なわれる、繊維の隙間に犬の毛やフケ、食べこぼしが入り込んでノミ・ダニ被害が発生する、などのデメリットもあります。
犬の肉球に、乾燥を防いでグリップ力を高める「肉球クリーム」を塗る、滑り止め付きの「犬用靴下・シューズ」を履かせるのも手軽で安価な方法です。
肉球クリームには保湿効果もあり、犬の皮膚ケアになりますが、こまめに塗り直す手間がかかります。また靴下やシューズを嫌がって脱いでしまう犬も少なくありません。足先に違和感があるので歩き方が不自然になることも多く、慣れるまで時間がかかる点がデメリットです。
犬の足元のコンディションを整えることも滑り止め対策になります。爪や足裏の毛が伸び放題になっていると、肉球がきちんと床につかず、滑るリスクが上がります。
爪は定期的にカットし、肉球の間から伸びる無駄な毛(足裏毛)も、こまめにバリカンやハサミでカットしてあげましょう。日々のケアだけで滑りやすさをぐっと減らすことができます。
既存の床にワックスやコーティングを施す方法もあります。自分で滑り止めワックスを塗布する、専門業者に本格的なガラスコーティングやUVコーティングを依頼するなど、選択肢は様々です。床の見た目の美しさを保ちつつ、一定のグリップ力を得られるのがメリットです。
ただ、ワックスは数ヶ月で効果が薄れ、塗り直しの必要がありますし、本格的なコーティングは施工費用が高額になりやすく、塗膜が剥離した場合には部分補修が難しく、全体の再施工が必要になることもあります。
床の滑り問題を根本から解決し、最も高い安全性を永続的に得られるのが「滑りにくいペット専用の床材への張り替え」です。犬と暮らすことを前提に作られた「ペット対応フローリング」なら、愛犬の足腰への負担を軽減しつつ、部屋の美観も損ないません。
初期費用はかかりますが、あとあと掃除がしやすく、清潔さを保ちやすい、安心なアプローチです。
「滑りにくい床材」と一口に言っても、種類や加工は様々です。どんな製品を選べばよいか、選択の目安となるポイントを解説します。
滑りにくい床材を選ぶ際、最も重要になるのが「表面塗装(コーティング)の種類」です。一般的なフローリングには、汚れや傷を防ぐために硬く光沢のある塗装などが施されており、これが滑りの最大の原因となります。
一方、滑りにくいフローリング、特にペット用のフローリングには、高い摩擦抵抗を生み出す塗装技術が使われています。
ペット対応フローリングなら、「美観」「衛生面」「安全性」の3つが両立できます。
ジョイントマットなどを敷くと、せっかくのフローリングが隠れてしまったり、インテリアの雰囲気が崩れてしまったりするかもしれません。ペット対応フローリングなら、美しい木目はそのままいかせます。
さらに水やよだれ、おしっこなどが染み込みにくい加工がされていれば、サッと拭くだけで掃除が完了し、衛生的です。マットを敷いた時のような段差も生まれず、犬や人がつまずく心配もありません。
■フローリングのメリットと犬との相性については、こちらをご覧ください。
・犬のためのフローリング選び|滑りにくさと天然木の質感を両立し、愛犬の健康を守る
「温かみのある天然木を使いたいけれど、犬は滑らないかな」とお悩みの方におすすめなのが、朝日ウッドテックの小型犬用フローリング「Live Natural for Dog」です。
本製品はフローリングの滑りに着目した、「滑りにくい」犬用フローリングです。表面に塗装メーカーと共同開発した特殊塗装を施すことで、人にも犬にもバランスのよい滑りにくさを実現しました。肉球がグリップする適度な柔らかさと高い摩擦抵抗を生み出す独自の塗装技術が使われています。それにより、犬が踏み込んだ瞬間に肉球が適度に沈み込み、体重をしっかり止めてくれます。天然木ならではの美しい質感で、空間に安定感と調和をもたらします。愛犬のために理想的な住環境を整えたいとお考えのオーナー様は、ぜひご検討ください。

愛犬が過ごしやすい環境を整えるにしても、住まいのタイプによって出来ることが異なります。賃貸と持ち家、それぞれの場合で行える安全対策をご紹介します。
賃貸マンションや集合住宅の場合、床のリフォームなどについては制限があるため、メインは、退去時に元通りにできる「原状回復可能」な対策となるでしょう。
たとえば犬の遊び場やよく通る動線に、滑り止めと防音を兼ねた防音マットやシートを敷けば遮音性を高められます。
さらに、ベランダや窓に落下防止ネットを設置すれば、万が一の事故を防げます。特に高層階ではベランダや窓からの転落は命にかかわります。「うちの犬は手すりを超えられない」と思っていても、大きな音や振動に驚いたときなどは普段以上の力が出るものです。好奇心旺盛な犬なら、隙間から外を見ようとして落ちてしまうこともあります。念には念を入れて対策しておきましょう。
一戸建てや分譲マンションなど、持ち家でリフォームが自由にできる環境なら、滑り止め対策は、長期的な維持管理を見据えた「床材の張り替え」がおすすめです。
一般的なフロアコーティングは摩耗や経年劣化で膜が剥離しやすく、数年ごとの再施工やメンテナンス費用が発生することがあります。一方、防滑性や耐傷性を備えたフローリングなら、ワックスや再施工が不要なので、長期的なメンテナンスコストと手間を削減できます。
戸建ての場合、床の防音対策は不要でも、道路への飛び出しや脱走にはマンション以上に注意しましょう。庭に犬を放したりドッグラン代わりに使ったりする場合は、必ず脱走防止用のフェンスを設置します。車や人が出入りする隙に犬が飛び出さないよう、カーゲートや屋外用ドッグゲートも設置しておくと安心です。
外のスペースに余裕があれば、犬用の足洗い場を作るのもおすすめです。足洗い場があれば散歩の後すぐに足の汚れを落とせるので、室内を清潔に保てます。近くにはリードフックを設置しておくと、一時的にリードから手を離すときにも便利ですよね。
室内の環境づくりとしては、犬の自由を確保する「ペットドア」も設置できるかもしれません。犬も常にケージやサークルの中にいるとストレスが溜まるので、理想としては、犬が自由に行動できる部屋を1つ以上設けたいものです。
ペットドアがあれば犬はいつでも自由に部屋を移動でき、ストレス軽減や運動不足解消に役立ちます。愛犬の出入りのたびに人が扉を開けてあげる必要もなくなり、お互いに自分のリズムで生活できるのもメリットです。
ただし思わぬ事故を防ぐために、犬が出入りする部屋のコンセントにはカバーを付ける、口に入れると危険なものは届かない場所に置くなどの安全対策は必須です。

犬が落ち着いて過ごせる専用スペースも確保しましょう。広さは、ベッドとトイレスペースを合わせた面積の3倍程度が目安です。室内の一角や家具の間のデッドスペースを上手に活用して、犬が安心して過ごせる空間を作ってあげましょう。
愛犬との暮らしをより豊かに、安全に楽しむためには、住環境に応じた空間づくりが重要です。マンションか戸建てか、あるいは賃貸か持ち家かによっても意識すべきポイントは異なるため、改めて必要な設備や環境を考えてみてはいかがでしょうか。
とりわけ、さまざまなリスクを考慮した安全対策は重要です。たとえば滑りやすい床は犬の足腰に大きな負担となり、重大なケガや病気の原因となります。お住まいに合った方法で、今できる最善の滑り止め対策を取り入れてあげてください。愛犬がいつまでも元気よく走り回れるように、まずは足元の床環境を見直したいですね。
愛犬と暮らす家づくりのポイントについては以下の資料に詳しくまとめています。これから犬を迎える人はもちろん、改めて家づくりのポイントを見直したいという人もぜひ参考にしてください。
■犬の被毛の種類やお手入れ方法については、こちらの記事をご覧ください。
・シングルコート犬とダブルコート犬の違い。毛が多い犬種とフローリングの関係は
「Live Natural for Dog」のフローリングをご採用のお客様から可愛い「マルプー」の動画を投稿いただきました。
https://www.woodtec.co.jp/products/lineup/flooring/fordog/voice/voice22/

石川 美代子
犬の管理栄養士、動物ケアスタッフ、動物医療技術師、犬の美容師(トリマー)。卒業後は動物看護師として動物病院に勤務し看護業務に従事。現在はwebライターとして主にペット関連記事の執筆、ペット用品・記事の監修などを行う。