COLUMN #45
動物医療技術師 石川 美代子

ぷにぷにした感触が魅力的な犬の肉球。ついつい触ってしまう人も多いと思いますが、肉球には犬が生活するために必要な役割がたくさんあります。 この記事では犬の肉球が担う役割や起こりやすいトラブル、日頃から心がけたいお手入れの方法などを解説します。

犬の肉球は正式な名称を「蹠球(しょきゅう)」といって脂肪と弾性繊維からできています。肉球の角質層にはスパイクのような突起が密集していて、他の皮膚とは違う独特の触感があります。この「蹠球」は、犬が過酷な自然界で生き抜くために進化した高機能な組織の塊です。では、肉球はどんな働きをしているのでしょうか。4つの重要な役割を深掘りします。

肉球は全体重がかかる足先を保護する「靴」のような役割を持っています。肉球の表面は分厚い角質で覆われているため、硬い地面を歩いても皮膚は傷つきにくくなっています。
真ん中の大きな掌球(前脚)や足底球(後ろ脚)、そして指先にある指球・趾球には衝撃を吸収し、骨格や関節を保護する効果もあります。肉球は犬が飛んだり跳ねたりした際の足腰にかかる負担を和らげ、
特に体重が重い大型犬や骨が細い小型犬にとっては、「天然のエアバッグ」として機能しており、毎日の歩行による微細なダメージを軽減する働きを持っています。
この厚い角質層と内部の脂肪層は、断熱材の役割も果たしています。肉球は外部の温度が直接体内の血管や骨に伝わるのを防ぎ、凍傷や軽度の火傷から足を守る「厚手の靴下」のように働きます。とりわけ過酷な環境で暮らしていた犬の先祖たちにとって、肉球の断熱効果は必要不可欠なものだったでしょう。
ただ、現代でも真夏のアスファルトは60℃を超えることがあります。どんなに肉球が丈夫でも火傷をするリスクがあるので、夏場の散歩には注意が必要です。
人は汗をかくことで体温調節を行いますが、犬は全身で汗をかくことができません。肉球には犬の体で唯一、汗を分泌する「エクリン線」があります。犬は肉球に汗をかくことで体温の調節を行っているのです。
また、このわずかな発汗は「保湿」の役割も担っています。肉球の表面が適度に湿ることで、角質が硬くなりすぎるのを防ぎ、柔軟な状態を保ちます。犬が緊張した時は足跡が湿っていることがありますが、これは精神的な発汗であるとともに、これから説明する「グリップ力」を高める効果もあります。
肉球の大切な役割の一つに「滑り止め」があります。犬の肉球には違う場所の皮膚と違うザラリとした独特の触感があります。
この突起と適度な湿り気が、滑りやすい岩場や湿った土の上で、踏ん張りを効かせるのに役立ちます。しかし、現代の日本家屋に多い「フローリング」の環境下では、この天然のグリップが十分に機能しないケースが増えています。肉球が本来担っている滑り止めの役割を果たせないと、足腰の負担が蓄積されて将来的に関節トラブルの原因となることもあります。
他の場所に比べて丈夫というイメージを持たれがちな肉球の皮膚ですが、肉球は私たちが思っているよりもデリケート。愛犬が足を滑らせている様子を見かけたら、肉球が発するSOSのサインかもしれません。肉球が滑りやすくなる主な原因を3つに整理しました。
肉球の持つクッション性・滑り止め効果は、肉球の間に生えている毛が伸びていると、最大限に発揮されません。足裏の毛が肉球を覆い隠してしまうと、「滑りやすい靴下」を履いてスケートリンクの上を歩いているような状態となり、肉球が持つせっかくのグリップ効果も意味がなくなってしまいます。
特にトイ・プードルやロングコートチワワ、ポメラニアンといった長毛種の犬や、毛の伸びる速度が速い犬は要注意です。
乾燥して弾力や湿り気を失った肉球も吸着力が弱まり、踏ん張りが効かなくなります。愛犬の肉球が極端にカサカサしているようなら、カビや細菌による炎症やアトピー性皮膚炎などを疑いましょう。
加齢(シニア期)による変化も見逃せません。老犬になると代謝機能が衰え、肉球の水分保持能力が低下して、カサカサと硬くなってきます。老犬は筋力も落ちてくるため、一度滑ると自力で体勢を立て直すのが難しく、転倒による怪我のリスクが非常に高まるので要注意です。
一般的なフローリングは犬にとってツルツル滑りやすく、さらに足裏の毛が伸びていたりすると、犬は常に踏ん張って歩かなければなりません。人間にとっては見た目が美しく掃除しやすいフローリングですが、犬にとっては「滑りすぎる」という大きなリスクがあるのです。
特にワックスが効きすぎた床や、耐摩耗性を重視した硬い床材は、肉球との相性が良くありません。歩くたびに犬の足が外側に開いているようなら、住環境としての見直しが必要かもしれません。
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(左)毛が肉球を覆っていると滑りやすい (右)毛がカットされた状態
犬にとって肉球はとても大切な器官です。なるべくこまめにお手入れしてあげましょう。基本的な肉球ケアの方法をご紹介します。
肉球周りの毛はこまめにカットしましょう。月に1〜2回程度カットして肉球がしっかり露出している状態をキープします。これだけで足腰にかかる負担が少なくなり、室内における踏ん張りの強さも劇的に変わります。
毛の長さは肉球を指で広げた時に毛が肉球の盛り上がり(パッド)を隠さない程度が目安ですが、肉球の間は広げられるのを嫌がる犬も多いため、基本的にパッと見で毛が肉球を覆っていなければ問題ありません。ただし、長毛種などで肉球の間に長い毛がおさまっていて、指でかきだすと肉球を覆ってしまうような場合は、肉球の間を指で広げて長い毛をかきだし、肉球にかぶる部分をカットする必要があります。
ハサミは皮膚を傷つける恐れがあるため、安全ガード付きのペット用バリカンを使用するのがおすすめです。
肉球の乾燥対策としては1日1回、犬用の保湿剤を塗るのが効果的です。保湿を行うことで肉球が柔らかくなり、フローリングとの接地面積が増え、グリップ力が向上します。
保湿剤にはいろいろなタイプがありますが、肉球には浸透性の高いジェルタイプがおすすめです。最近では、より保湿力の高い「バームタイプ」も人気です。天然由来のミツロウなど、愛犬が舐めても安心な成分のものを選びましょう。塗り過ぎると逆に滑って怪我をしてしまう可能性があるので、薄く均等に塗るのがポイントです。
散歩後は肉球も含めて足の裏をきちんと洗ったり拭いたりしてあげましょう。まず、ぬるま湯やペット用のウェットティッシュを使い、優しくこすり洗いをして汚れや異物を取り除きます。
洗い終わったらゴシゴシ拭かず、タオルでしっかり水気を吸い取ります。水分が残っていると指間炎(指の間が赤くなる炎症)の原因になります。
水分を拭き取る際は、以下のポイントもチェックしましょう。
・赤く腫れていないか(炎症のサイン)
・トゲや小石が刺さっていないか
・熱を持っていないか(発熱や炎症)
・白っぽくなっていないか(血行不良の疑い)
もしも犬が肉球を頻繁に舐めていたり、いつもと状態が違うと感じたりした時は、かかりつけの動物病院を受診することをおすすめします。
どんなに肉球の健康を保っていたとしても、日々歩く室内の「床」が滑りやすいままでは、愛犬の健康を完全に守ることはできません。
ツルツル滑る床で踏ん張り続けることは、膝の皿がずれる「パテラ(膝蓋骨脱臼)」や、脊髄を圧迫する「椎間板ヘルニア」の要因となります。特に足が短い犬(ダックスフンドなど)や小型犬は、体型上どうしても足腰に負担がかかりやすく、椎間板ヘルニアなどの関節トラブルを起こしやすくなるといわれています。
これらの疾患は一度発症すると完治が難しく、手術が必要になるケースに発展することがあるだけでなく、最悪の場合は歩行困難になる恐れもあります。肉球ケアと並行して滑り止め対策を施した住環境を整えることが、愛犬の健康寿命を延ばすことにつながります。
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犬にとって理想的な床というのは柔らかいだけでなく、肉球のグリップがしっかり効く「防滑性」を備えた床です。目安として「滑り抵抗係数(C.S.R・D’値)」が適切な値(0.4程度)であることが求められます。
クッションフロアやカーペットも“滑らない”という点では有効ですが、抜け毛の掃除や「おしっこ」の染み込み、アンモニア臭対策、爪によるひっかき傷など、メンテナンス面でやや手間がかかります。
当社の「Live Natural for Dog」は、大切な家族である愛犬の歩きやすさに配慮した犬用フローリングです。ぬくもり溢れる天然木に特殊な塗料を塗ることによって、小型犬の足腰に負担がかかりにくい適度な滑りにくさを実現しました。従来のワックス不要なメンテナンス性はそのままに、肉球がピタッと吸い付くような、独自の防滑性能を持っています。
突板の美しさと無垢材のような質感が楽しめ、抗菌・抗ウイルス性能も備えているため、新築やリフォーム、注文住宅を検討中の方に最適です。木材ならではの耐摩耗性もあり、傷がつきにくいのも嬉しいポイントです。
犬の肉球には快適に過ごすための役割がたくさんあります。また、肉球は愛犬の健康を把握するためのバロメーターでもあります。質感や色に加えて温度などで犬の体調を判断したり、病気のサインに気付いたりすることも少なくありません。
毎日の保湿ケアや足裏毛のカットを習慣化し、それを受け止める「床環境」を整えること。日々のケアと住環境の見直しという2つの要素がきちんと揃ってこそ、愛犬はシニアになっても自分の足で元気に歩き続けることができるのです。
この機会にぜひ、愛犬の肉球をじっくり観察してみてはいかがでしょうか。犬に優しいフローリングをお探しの方は、「Live Natural for Dog」の導入もぜひご検討ください。

石川 美代子
犬の管理栄養士、動物ケアスタッフ、動物医療技術師、犬の美容師(トリマー)。卒業後は動物看護師として動物病院に勤務し看護業務に従事。現在はwebライターとして主にペット関連記事の執筆、ペット用品・記事の監修などを行う。