
COLUMN #4
動物救急センター E R 文京センター長 石田哲太郎
動物医療技術師 石川 美代子
ペットと共生する住環境において、床材選びはとても重要です。床材にはフローリング、タイル、フロアマット、絨毯、畳など様々なものがありますし、水回り、リビング、寝室などで使い分けたい方も多いでしょう。床材によって滑りにくさやお手入れのしやすさなどが異なるため、生活スタイルや動物の種類、かかりやすい病気などを総合して考え、選ばなければなりません。
この記事では、ペットの病気や事故を予防・ケアする上で、床材がどれほど重要かを解説し、知っておきたい床材選びのポイントをご紹介します。
ペットが床で滑る原因には、環境だけでなく犬の体、特に肉球まわりのつくりが大きく関係しています。動物の肉球は、外表面は厚い角質層で覆われ、内部は脂肪と弾性繊維やコラーゲンからなる柔らかな皮下組織でできています。そして肉球の周囲には発達した汗腺が見られます。
この肉球が、高いところから飛び降りたり、急停止する際の衝撃をやわらげ、適度に汗をかくことで滑り止めとなったりする役割を果たします。しかしたいていのフローリングには爪も刺さりませんし、肉球のグリップも効ききにくい床構造となっています。
もしこの肉球本来のグリップ機能が十分に働かず、つるつるとした滑りやすい環境に暮らし続けていると、愛犬と家族の健康にはどんな影響があるのでしょうか。
犬は室内で勢いよく走り回ったり、急な方向転換をしたりするものです。この時、床環境によっては、しっかり止まりきれず、関節や靭帯に余分な負荷がかかることがあります。
そこで注意が必要になるのが、「膝蓋骨脱臼(パテラ)」と「椎間板ヘルニア」のリスクです。
〈膝蓋骨脱臼(パテラ)ってなに?〉
膝蓋骨は楕円形で長軸方向に長い構造をしており、膝関節をスムーズに曲げ伸ばしするための滑車のような役割を果たします。この膝蓋骨が脱臼した状態が「膝蓋骨脱臼」です。脱臼のグレードは4段階に分けられ、軽症であれば温存、重度あるいは急激に進行する場合は手術が必要になることもあります。
膝蓋骨内方脱臼は小型犬に多く発生しますが、遺伝性を示唆する明確な原因遺伝子は特定されていません。一般的には、発育期に骨形成の異常が生じ、その結果、膝蓋骨と付着する大腿四頭筋の方向が異常になることで引き起こされると考えられています。
膝蓋骨脱臼の急激な進行を予防するには、室内環境の整備も大切です。ペットの性格や活動性を加味して、滑りにくい床材を検討しましょう。
〈椎間板ヘルニアってなに?〉
椎間板ヘルニアは、犬の脊髄疾患でもっとも多い疾病です。椎間板の中身(髄核)が飛び出て急性発症するタイプと、椎間板自体がじわじわと飛び出てくる慢性進行性のタイプの2種類が代表的です。初期の症状は痛みが中心で、進行すると麻痺が生じ、早急な検査や治療が必要となります。
また軽度の麻痺が生じた場合、足が本人の意思とは違った動きとなり、つまずいたり転んだりするリスクが高まります。床で足が滑り外側に開いてしまうと、股関節形成不全の悪化要因にもなりかねません。
自宅療養では、まずは急激な姿勢変化を避けるようにサポートすること。そしてケージレストや人の管理下での活動に留め、安静を保ち、滑ったり転んだりしない環境を整えてあげることが重要です。
床が滑りやすいと、犬は歩くたびにバランスを取ろうと、無意識に余計な筋肉を使います。この、常に「踏ん張り」を続けている状態は、足腰や関節に慢性的な疲労を蓄積させる原因になります。
また、歩くたびに「また滑るのでは」と不安を感じる環境は、犬にとって心理的なストレスにもなります。これが原因で運動を嫌がるようになったり、姿勢が不自然になったりすることもあるでしょう。
滑りやすい床は、犬だけなく人にとってもリスクがあります。特に足腰の筋力が低下している高齢者や、室内を走り回る小さな子どもにとって、滑るフローリングは室内転倒事故の大きな原因です。高齢者の場合、転倒がきっかけで骨折や寝たきりにつながるケースも少なくありません。
一方で、床は「滑りにくいほど安全」というわけでもありません。まったく滑らない床は足の引っ掛かり(つまずき)につながり、かえって転ぶ原因となる可能性があります。人とペットの両方が安全に暮らすには、「適度な」滑りにくさ(つまずきにくさ)を考慮することが重要です。
ペットにとっても人にとっても安全な床とは、どんな床でしょうか。家庭での床材選びの参考にしたい、3つの評価基準をご紹介します。
滑りにくさを客観的に判断する基準として、人の滑り抵抗値を示す「C.S.R」と、小型犬の歩行時の滑り抵抗値を示す「C.S.R・D’(動作滑り抵抗係数)」があります。
「C.S.R」は、人が靴を履いた状態や素足で歩いた時の滑りやすさ・転倒リスクを測る指標で、値が低すぎると滑りやすく、高すぎると人の足が引っ掛かり(つまずき)の原因になります。一方、「C.S.R・D’」は、小型犬の肉球に合わせた適度な引っ掛かりと沈み込み(グリップ力)が得られるかを測る指標です。
床材選びでは「C.S.R」と「C.S.R・D’」の両方をチェックし、数値が適正範囲内にある床材を選ぶのがおすすめです。そうすれば犬にとっての滑りにくさ(高いグリップ性)だけでなく、人にとってのつまずきにくさ(適度な滑りやすさ)にも配慮された、人にも犬にも最適バランスの滑りにくさを持った床を選べます。
日常の清掃はもちろん、しっかりとした衛生管理を行うためには、アルコールや次亜塩素酸ナトリウムなどを用いた拭き取りや消毒が欠かせません。
このため床選びでは、日常の拭き掃除や消毒に対する強さ(耐薬品性能)も重要ポイントです。アルコールや消毒液に強い耐薬品性能を備えた床材を選べば、変質や傷みを気にせず手軽に消毒・除菌ができ、床をいつでも清潔に保つことができます。
また、フリーワックス仕様のためメンテンスの手間も軽減できます。
安全性の高さを優先するとしても、毎日過ごすリビングや居室では「デザイン性」も譲れない要素です。床が部屋全体のインテリアと調和し、住空間としてぬくもりや心地よさを感じられる質感か。これも満足度の高い住まいづくりに欠かせない評価基準となります。
愛犬が室内で滑らないようにするため、さまざまな対策を講じている飼い主さんは少なくありません。代表的な4種類の滑り止め対策の特徴を解説します。
安価でクッション性が高く、水にも強いため、清拭しやすいのがメリットです。一方で、製品によってはビニル特有の安っぽさが気になる、インテリアと合わないという場合もあるかもしれません。犬の爪によって表面が破れやすい、家具の重みで凹みが残りやすい点もデメリットです。
クッション性・滑り止め効果が高いうえ、汚れた部分だけを外して洗えるので便利です。 しかし、凹凸の多いもの・足の長いものの中には、清潔さを保ちにくく、イエダニ等の繁殖によるアレルギーの原因になる可能性もあります。製品によっては、異物が落ちていても見つけづらいものもあり、誤食につながるリスクも。ごみや汚れにすぐ気付ける、そして拭き取りやすい床環境を求める場合は注意が必要です。
滑り止めコーティング・ワックスは、既存のフローリングに塗り重ねるだけで手軽にグリップ力を高められます。しかし、施工のムラができやすかったり、時間が経つと皮膜が剥げて効果が薄れたりするので、定期的な塗り直しや古い塗膜の剥離作業(ハクリ)が必要になるかもしれません。長期的に見るとメンテナンスの手間とコストがかかる点が課題です。
お手入れや愛犬の滑りについて考えると、フローリング材は選びにくい…と考える飼い主さんもいるかもしれません。しかし最新のペット用防滑フローリングは、表面塗装技術の進化により、「滑りにくさ」「お手入れの手間軽減」「木目の美しさ」を兼ね備え、衛生面・美観・安全性などに配慮できます。
張り替えや新築時に導入すれば、初期費用はかかっても、長期的・根本的に安心できる住生活を提供してくれるでしょう。

朝日ウッドテックでは、小型犬の足腰に負担のかかりにくい、滑りにくさに配慮した天然木フローリング「Live Natural for Dog」を販売しています。
独自開発の防滑塗装により、柔らかくかつ強靭な塗膜で天然木の質感を維持しつつ、滑りにくい工夫もされています。愛犬の肉球がしっかり床を捉えて踏ん張りやすく、素足で歩く人にとってもベタつかず快適で、小型犬と生活をする飼い主にとって、より豊かな生活を送るための選択肢となります。
「Live Natural for Dog」は、厳選された銘木(天然木)を使用しており、木のぬくもりや美しい木目をそのまま楽しむことができます。
天然木ならではの質感やぬくもりは、住空間を豊かにするための選択肢のひとつですです。ペット用だからといってインテリア性を諦める必要がなく、上質で落ち着いたリビング空間を作り上げることができます。
「Live Natural for Dog」は、防滑性能だけでなく、お手入れのしやすさも特長です。面倒なワックス掛けは不要(フリーワックス)で、日常的な清掃だけで滑り止め効果が持続します。
耐薬品性もあり、薬品による変色・劣化を防ぎます。耐摩耗性にも優れ、長期間にわたって美しさと安全性をキープしやすくなります。
私たちの生活環境は、日々変化していきます。人とペットが共に快適な生活を送るには、ライフスタイルの変化や加齢に合わせ、住環境を適応させていく必要があるかもしれません。
たとえば病気や加齢により足腰が弱ってくると、人も犬も踏ん張りが効きにくくなるものです。肉球の滑り止め機能を十分に発揮させるために、肉球の隙間に生えている毛を適切な長さに定期的に処理するなど、その時の状況にあった観察とケア、それに加えて暮らしやすさのチェックも行いたいものです。
今、生活をしているその瞬間が充実していることは、将来の充実へとつながります。毎日のちょっとした瞬間に安心を感じられる豊かな住環境が、これからも多くの人とペットに笑顔を広げることを願っています。

動物救急センター E R 文京センター長 石田哲太郎

リライト記事監修
石川 美代子
犬の管理栄養士、動物ケアスタッフ、動物医療技術師、犬の美容師(トリマー)。卒業後は動物看護師として動物病院に勤務し看護業務に従事。現在はwebライターとして主にペット関連記事の執筆、ペット用品・記事の監修などを行う。